レポート

国際情報論特講1
同種のテーマ、あるいは類似しているテーマを論じている二篇の雑誌論文を取り上げ、比較・論評せよ。

はじめに
 『月刊現代』1、『潮』2各2004年6月号の「イラク情勢と日本」に関わる論考を比較・論評する。
『月刊現代』の「小泉イラク派兵『狂ったシナリオ』」は、立花隆の緊急寄稿による。「日本政府の働きがいかに小さなものであったかは、三人が解放されることを、政府が最後まで何ひとつ知らなかったということですぐにわかる。三人が解放された現場(犯人グループから三人がイスラム聖職者協会のアルクベイシ師のモスクに連れられてこられ、覆面を外されるところ)に立ち会っていたのは、在日イラク人で、東京のテレビ局(日本テレビ)で通訳の仕事などをしていたディア・キデル氏」3であり、無策の策に終始した日本政府である。
 第一にいけなかったのが、一報を聞いて、自衛隊を撤退させるのかと問われて、言下に、撤退させませんと答え、「テロリストの卑劣な脅しに屈するようなことはしません」4と大見得を切り、犯行グループをテロリストと決めつけたことだけである。
 今、ファルージャをはじめイラクで起きていることはこの構図の繰り返しです。米軍はイラク国民と戦争を始めたと言っていい。パレスチナと同じように10年や20年では終わらないかもしれません。それを小泉首相は簡単に『テロ』と片付けてしまう。
 現状を知って、なお米国を支持するというなら、それも一つの哲学でしょうが、小泉首相の場合は単に不勉強です。パレスチナ問題に中立を宣言している日本の首相としては認識不足である。
 さて、ここで人質になった高遠菜穂子に話を移す。それというのも高遠は、イラクをいちばんよく知る日本人の一人で、民衆レベルのイラク人が何を考え、何を感じているかをいちばんよく知る人だからだ。
 高遠は自分のホームページ5を持っており、そこに、さまざまな人とのメールのやりとりの形でイラクでの行動と見聞が詳しく記録されている。それは軽く本2冊分はあるが、大変に情報量が多いページで、おそらく、いまの生のイラクを知るのにいちばんいいページである。彼女は、ストリート・チルドレンから、学生、医者などのインテリ、その辺の町の一般大衆、農民など、あらゆる階層の人とわけへだてなく付き合い、意見を交換しあっているから、外務省官僚や、ジャーナリストなどからは絶対に得られないような生きた情報に満ちあふれている。
 「イラクアラブ諸国の中でも“親日”(日本が好き)の国として知られており、本当に日本人のことを大多数の人が信じています。もちろん日本の政府がアメリカの味方をしたことを知っています、自衛隊が武器を持ってイラクの街角に立てば、彼らもますます混乱するでしょう。こんなこと考えたくありませんが、日本の自衛隊はたくさんの戦死者を出すと考えられます。だまってまだ戦争は終わっていないのですから・・・」6日本人がやるべきことではない。
 「なぜテロが起きるのかは明白です。占領軍がいるからです。それを手伝いに来る外国が警告を受けているのです。今朝の爆破は韓国大使館を狙ったのです。民間人まで無差別に狙っているのではなく、これは警告です。」
 「小泉さんは自衛隊は軍隊とはっきり言いましたが軍隊に人道支援は残念ながら出来ません。ここに来て何をするかもはっきりしないのに『テロとの戦い』の名のもとに外国の軍隊がここに集められると言う事はテロリストを増やす事に拍車をかけていると言うことに気付かなくてはならないと思うのです。」7テロが起こる本当の理由は何であるのか。
 サマワ自衛隊の主要な支援事業の一つをされている給水支援。TVでも大々的に報道された2004年3月26日の「給水作業開始式典」があったことを報道している。
 完全にショーアップされ、最後は各地域に出かける給水車を撮影して終了であり、マスコミが伝えない真実は何であるのか分からないどうしてであろう。
 いったいこの自衛隊派遣は何のためにやったのか。自衛隊のおかげで、日本は国際貢献ができていますという自衛隊の広報宣伝と小泉首相ブッシュ大統領から頭をなでてもらえるという以外のどんなメリットがあったというのか。イラク国民にとって、そして日本国民にとって誰のための支援なのか分からない。
『潮』の「イラクの民衆は何を望んでいるか。」と題して、八木澤高明・フリーカメラマンが、現地レポートを伝えている、戦闘が続くなかで意外に気さくな人々であると言っている。
また、占領軍の一部と考えられる自衛隊では、といってみたりしている。
さらに、イラク和平と日本の役割として、イラクにおけるテロ急増の真因としては、イラク情勢が急速に悪化しているといっているがそうであろうか。こんどは、「国連主導」に変えるチャンスであると明言している。
 日本とのかかわりでいえば、まずいま米軍と協力して自衛隊が活動することにどんな意味があるのか、冷静に考えるべきだと思う。
人質解放に貢献した湿原復元構想では、イラク武装勢力に捕らわれていた日本人の五人が無事解放されてたいへんよかった。しかし、マスコミの一般的な論調を見ていると、大事な点が見落とされているように思うので、ここで指摘しておきたい。イラク復興の“構想”を提示せよと、言わんばかりに、述べている。
小泉政権を震撼させた八日間は、「約束」から「解放」まで、官邸はどう動いたか。アルジャジーラの第一報は、日本人三人が拘束されたとの情報が、官邸記者たちには入ったのは午後8時20分過ぎだった。NHKが、午後8時43分、臨時ニュースを流したのはメディアである。

まとめ
『現代』では、人質事件と内戦激化にみる真実は、ファルージャの攻防で戦争の性格が完全に変わった・・・人質解放はなぜ遅れたのか。政府の無策と官製デマ。イラクの実情が伝わらないいま、自衛隊に危険が迫り、日本の国際的立場は最悪となる。ことを言っているが、表面的な内容が伝えられているだけである。
 『潮』では、現地でのイラク人がなにを望んでいるのかとか、自衛隊を占領軍の一部を考えているのか。イラク和平には日本よりも、「国連主導」に変えるチャンスであると伝えているのが、論調である。
 論評としては、イラクで起った、人質事件は、日本への犯感、敵対意識ではなかったか。幸いにも、人質者は、釈放されたが、イラク人が日本、アメリカに、イラク人が望んでいることは、和平にあるのでは。


1.立花隆「小泉イラク派兵『狂ったシナリオ』」『月刊現代』2004年6月号、28−41頁。
2.八木澤高明他「流動の「イラク」と日本」『潮』2004年6月号、154−171頁。
3.立花隆「無策の策に終始した日本政府」29頁。
4.小泉首相「『テロリスト』発言の大愚」30頁。
5.http://www.iraq3support.or.tv/nahoko_takato.htm 2004/09/09 PM9
6.立花隆「日本でやるべきことではない」36頁。
7.立花隆「テロが起こる本当の理由」38頁。

国際情報論特講2
情報活動の過程について述べよ。

はじめに
 情報とは「情況の知らせ」(1)とある。一般的には、①事物・出来事などに関する知らせ、②ある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意志決定をするために役立つ資料や知識をいう。

1 戦略情報活動
(1)情報と目的
 情報とは知識である、とシャーマン・ケントはいう。しかし、それは知識一般という漠然とした知識ではなく、ある目的に合致しその要請に答えるために、選択され整理された知識である。
 目的とは、戦略情報の場合には、国家目標(基本的なもの、特殊的一時的なものに分かれる)がこれにあたる。
 情報活動を行う場合には、まずこの目的の正確な把握と分析を行ない、これから対象とする情報についての思考の範囲をはっきり設定することが大切である。
 情報は主観が混じらず客観的でなければならないと強調されるが、このことを情報の無目的と取り違えてはいけない。戦略情報はそんなとりとめもないものではない。
 目的、目標を認識するときにわれわれは次のような誤りを犯しやすい。
① 現在の目先の、そして条文に書いてある通りのことだけに囚(とら)われやすい。
われわれは、与えられた目的ばかりでなく、予想される次の目標をも考慮に入れる必要がある。
とくに戦略情報の目的である国家目的については、明文化されていない場合さえあり得るので、これをどう認識するかということを情報担当者と政策立案者の間で一致させておくことは極めて大切である。
② もう一つは逆に目的をあまり拡大してしまって抽象的で焦点がボケてしまうという誤りである。

(2) 情報業務(活動)
 情報の作成過程を簡単に述べれば次の通りである。収集機関によって資料源から収集された情報資料は処理機関に運ばれ、ここで必要な思考作用を加えて処理され、情報が誕生する。
情報の作成は循環した過程で行われ、継続した行為である。
 情報を作成する情報業務(活動)は四段階に区分することができる。すなわち①収集努力の指向、②情報資料の収集、③情報資料の処理、④情報の使用である。これは循環する過程の一応の区分であって、途中で逆戻りしたり、場合によっては飛び越えたりすることもある。
 以下この情報業務(活動)の四過程について説明する。
ア 収集努力の指向
(ア)業務の一般手順
情報活動は、情報の需要を予測するか、または情報使用者からの情報要求があってはじめて開始される。
収集努力の指向は、あらゆる情報活動に一定の方向性を付与し、有用性という価値基準にしたがって、一切の活動が効率的に機能するよう、情報循環を強力に推進し、コントロールする役割をもっている。
 収集努力の指向業務は、一般に次の手順による。
① 情報要求、または情報需要を分析検討して、情報要素を選択する。
② 情報要素の優先度を考慮して、情報主要素(EEI)を決定する。
③ 情報計画を作成する。
④ 情報計画にもとづいて、情報組織・機関に対して任務を付与するとともに、統制および調整の準拠を示す。
⑤ 計画・命令の遂行に必要な指導・調整および修正を行う。(2)
(イ)情報要求と情報要素
情報資料を収集するための基礎となる情報要求と情報要素についてその細部を説明したい。
国家戦略の立案の段階で、戦略が情報に期待しているものは何であろうか。いま、問題を単純化するため、ある対象国を想定して、安全保障上の戦略を検討する場合、戦略の立案者は、最小限、次のことを知りたいと思うであろう。
対象国の意図、能力、どんな行動(可能行動)を採用するか、その行動を取る場合どんな影響を及ぼすか(可能行動の影響)などである。
これらの事項の内容について、戦略立案者は、全部を情報に期待することはできないにしても一応情報要求として情報責任者に示すだろう。
国家レベルの戦略において情報要求は、一般に、抽象的・包括的な表現で示されることが多い。これを、そのまま情報機関に示しても、効果的な情報活動を期待することは難しい。そこで、情報部門の責任者は、情報要求の内容を、収集・処理など主として情報業務の技術的側面および情報対象の特性などから、これを検討・分析し、その結果を情報要素として情報機関に指示することになる。実際は情報要素の一部である情報主要素を指示する。情報要素は、情報要求と同一の表現をとることも皆無とは言えないが、多くの場合、
それは情報要求の内容を分析して、より具体的な事項として、細分化され、特殊化された表現となる。
 いま「某国が、対日侵攻にあたって起用できる能力は?」という情報要求があると仮定しよう。
 情報部の責任者は、この某国の対日侵攻能力という情報要求を、単に、軍事的側面からだけではなく、政治、経済、運輸、社会、自然環境・・・などあらゆる角度から検討して、
これを立証するため、必要にして十分な情報要素を選定する。某国某地域における軍事力の配置やその質的・量的能力のほか、多くの非軍事的事項が情報要素として取り上げられるだろう。
 たとえば、飛行場、鉄道、港湾、道路、航空機、車両、船舶・・・等、輸送能力の解明に役立つ事項も情報要素の一項目として、検討の対象となろう。この際、鉄道に関していえば、国家レベルの情報組織においては、「欧・亜を連絡する鉄道輸送の能力とその弱点」というような、比較的包括した表現で情報要素を示されることもあるだろうし、または「シベリア鉄道の現状および××年頃の予想能力とその弱点」と表現されるかもしれない。
 何れにしろ、このような具体的・個性的表現の情報要素を示すことによって、適切な収集機関の起用や効果的な資料源の開拓・配分が可能となる。
 情報要素は収集活動を効率的にするだけではなく、情報資料の処理業務についても、同様の役割を果たしている。すなわち、処理のため持ち込まれた情報資料はいかなる情報要素に関連して収集されたものであるか、その情報要素と関連する情報要求はどれかなどを検討することにより、処理業務が著しく指向性を帯びてくるのである。
 情報要素、とりわけ情報主要素(EEI)は、収集活動に明確な努力指向の準拠を与えるだけではなく、情報作成の全過程を通じて、すべての業務を「有用性」という価値基準にしたがって、強力に推進する原動力となる。(3)
(ウ)情報主要素(EEI)
 情報要求の解明に役立つ情報要素は、理論的には、無数に存在する箸である。しかし、実務上の見地からすれば情報要素は、量的にも質的にも制限できる。というよりは、極力制限しなければならない。それは、次のような理由からである。
① 情報機関の能力には限界があり、無限の情報要素を追求することは不可能であること。
② 情報要求には、通常、その知識を使用するのに時間的制約がともなうものであること。
③ 情報要素の解明にあたっては、そのキメ手となるいくつかの重要情報を総合検討することにより、おおよその判断が可能であること。
④ 情報要求の解明に必要な情報および情報資料の相当量が、既存のファイルに蓄積されていること。
 しかしながら、情報機関が限定された質・量の情報要素だけを取り扱うとしても、戦略情報にはその性格上、なおかつ、百科事典的広汎多岐にわたる情報的知識も要求される。またそれらの広範な知識には、有用性の見地からすれば、それぞれの内容に、軽重、緩急の差があることは当然といえよう。
 ここにおいて情報要素の数的かつ質的制限が、ますます切実なものとなってくる。戦略情報において情報要素のうち、とくに重要なものを情報主要素(EEI)として優先的に取り扱う理由もここにある。
 この重要な情報主要素は、指揮官(最高首脳)自らが決定するものである。(4)
イ 情報資料の収集
(ア) 意義
 情報資料の収集とは、収集機関が各種機関(資料源を含む)を組織的に運用(動かし、開拓)し、情報資料を探求入手し、それを当該情報本部(情報部)に伝達することをいう。
(イ) 資料源
 資料源とは対象(相手国、敵など)とその環境に関する情報資料が得られる人、物、行為をいう。具体的に例を挙げると通報者、スパイ、国内外の新聞、雑誌などの定期刊行物、文書、書籍、外国放送、電波情報、直接の観察、衛星・偵察機による写真などである。
ウ 情報資料の処理
(ア) 処理の意義
 処理とは、情報資料を情報に転換することをいい、記録、評価、判定からなる。いかに貴重な情報資料であっても、その処理を誤れば何らその価値を発揮しない。したがって、処理にあたっては、論理的な手続きと適正な判断とをもって簡明適切かつ直ちに使用できる情報を作成し得るよう努めなければならない。
(イ) 記録
 記録とは、情報資料の比較、研究に便利なようにその種類に応じて系統的に分類、記入、整理を行うことである。
 情報資料の処理の本質は、評価、判定という創造的思惟の行為にある。記録はこれらを補助する便宜的手段である。すなわち、記録の目的は情報資料の評価、判定を容易にするにある。
(ウ) 評価
 評価とは、情報としての価値を決定するため、入手した情報資料を検討することである。つまり、個々の情報資料についてその適正性を判断し、かつ資料源と収集機関の信頼性を審査して情報資料の適正性を検討する過程である。この評価は処理の段階においてきわめて重要な地位を占めるものである。したがって、評価を行うにあたっては、できる限り既得の情報や情報資料を綿密に検討して万全を期することが必要である。
エ 情報の使用と配布
情報の使用とは、首脳部および特に必要とする者に、時機を失せず、報告または提示し、使用者の用に供する。
おわりに
 情報はある種の知識である。この情報は情報資料から導き出されるものである。現在は情報社会であり、ありとあらゆる「情報」が氾濫している。しかも、これをコンピューターを使用して、蓄積・整理し、利用している。膨大な「情報」を機械的に処理する面での発達には目ざましいものがある。この情報化時代の中でどうわれわれが対処して行けば良いか重要な課題である。

参考文献
(1) 金田一京助『明解国語辞典』三章堂
(2) 大辻隆三『生き抜くための戦略情報』防衛教育研究会、1981年、P.119
(3) 大辻隆三『生き抜くための戦略情報』防衛教育研究会、1981年、P.122〜124
(4) 大辻隆三『生き抜くための戦略情報』防衛教育研究会、1981年、P.124〜125