国家行政論


『現代国家と行政統制について述べよ。』

1. はじめに
 19世紀の立法国家から20世紀の行政国家への移行は、行政府の政策立案機能や政策決定機能を増大させました。行政府を外在的に、また内在的に統制して行政の民主化を確保し、行政責任を明確にする。

2. 立法国家と行政国家
 立法国家とは、19世紀までの国家、すなわち立法国家が20世紀に入ると、資本主義の進展や社会経済の変動に対応しうる機能的手段をもたぬ国民大衆は、国家の諸活動をおもむろ期待したのである。すなわち、それまでの国家に変容を迫ったのであった。「神の見えざる手」により、あるいは、社会自身によっては解決しえない諸々の社会的・経済的問題の解決に、立法国家としての近代国家によってではなく、行政の3つの機能のなかでも行政の機能を重視する考え方が支配的となる。ここが行政国家である。
 行政国家とは、政府が社会の秩序維持にとどまらず、一定の理念の実現を目指して国民の生活、経済活動の在り方に積極的に介入しようとする国家をいう。立法国家、消極国家、夜警国家と対比される。
 社会主義への対抗もある中で、伝統的な自由主義に立脚する小さな政府、夜警国家が批判され、国会が社会保障制度を設け、公共事業や各種の経済政策を行った複雑で専門的なものとなっていった。これに対して、国会議員などの政治家や、主としてそれから選ばれる大臣は、福祉や経済についての専門的な知識・経験を持たない(あるいは少ない)場合も多く、どのような問題があり、どうすればよいかを自ら判断することが困難なものとなる。そこで、各分野においてその専門的な知識・経験を持つ官僚に頼らざるを得なくなり、本来行政を担当するはずの官僚が、法律の作成や政策決定などの、立法に冠することまで強い影響力を持つ立法よりも優越した立場になり、国民の意見が反映され難しくなる。
 また、社会保障や経済政策のために各種の規制が行われるようになると、行政は国民の活動に広く介入するようになる。このような行政の優越する国家を行政国家と呼び、またこのようになる現象を行政国家現象と呼ぶ。
 国家に複雑・多様な役割が求められる現代では、そうおうの規模の行政組織と専門的な知識・経験に基づいた判断は不可欠であり、程度の差こそあれ、どの国家においても行政国家現象が見られると言われる。

3. 行政府の政策立案機能や政策決定機能
 政府は、国家、もしくは国内の地方のある一部(地方公共団体など)における統治期間の総称。狭義には、行政権の属する「行政府」のことを「政府」と呼び、広義には、統治にかかわるすべての期間(立法機関・行政機関・司法機関など)を呼ぶ。行政府の政策立案機能や政策決定機能を増大させる機能となる。また、行政府を外在的に、また内在的に統制して行政の民主化を確保するような組織となり、重要な役割を担っている行政国家また、現代国家といわれるような行政府となる。このように、国民の大衆の「知る権利」を制度的に保障し、行政の保有する情報を原則的にすべて公開する情報公開制度は、行政に対する統制の基本的および前提的な条件である。情報公開制度は、それによって国民大衆の情報ニーズを充足するものであるが、より詳細に見れば国民大衆にとっては、(1)知る権利の保障、(2)行政への参加の促進、(3)行政に対する信頼の確保、(4)日常生活における充実と向上、というように機能するものと理解することができる。そして、こうした機能を通じていえることは、行政にたいして国民大衆が統制を加えることになるということである。まさに、「初めの言葉ありき」のことわざのごとく情報という言葉を入手することが行政への統制をより可能とするのである。しかも、そうした統制の過程へ国民大衆が参加することによって、行政を一層民主的なものに濾過することとなるのである。

4. 行政統制と行政責任
 ここでは、現代国家の行政活動を担う官僚制組織がいかなる制度の枠組みの下で、どのような作動原理に従って活動しているのかという点に焦点をあててきた。
 しかし、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その権利は国民がこれを享受する」(日本国憲法前文)ものである。したがって、国民の側は、官僚制組織に多くを期待するのであればあるほど、これを統制する方法に工夫をこらさなければならない。
 現代民主制は、近代民主制以来の直接民主制と権力分立製の憲法原理を承継している。そこで、行政活動に対する統制(行政統制)は、国民を直接に代表する議会による統制、国民を直接または間接に代表する執行機関による統制、そして裁判所による統制を基本にしている。これらはすべて憲法構造として擁立されている統制であり。不服従に対する制裁手段を整えた制度統制である。そしてまた、それは行政機関の外部に存在する機関による統制であるので、これを制度的外在的統制と呼ぶことができる。
 行政統制が制度的統制に限られている場合には、行政統制と行政責任は裏腹のかんけいにあるかのようにみえる。責任とは統制に的確に応答することにはほかならないかのように思われるからである。この点をもう少し分解してみれば、行政官・行政職員の責任とは、政治機関から与えられた任務を遂行する責任(任務責任)、監督者の問責に応答して自己のとった行動について弁明する責任(説明責任)、任命権者からくわえられる制裁に服従する責任(受裁責任)であるように思われるからである。

5. 外在的及び内在的統制
 アメリカの行政学者のチャールズ・ギルバート(C.E.Gilbert)は、この種の事実上の統制を先の制度的統制と区別し、非制度的統制と名づけている。
 行政統制の構図をこの分類方法によってマトリクスに整理してみたのが図表20-1である。日本における制度的外在的統制については、国会による統制、内閣・内閣総理大臣・各大臣による統制裁判所による統制がある。

6. 行政評価
 政策実施活動の有効性・能率性の評価はつねに不完全なものにとどまる。そして、そのひゅう課の仕方についてはつねに論争の余地がある。分析評価は政策評価決定者のためのものか、それとも国民一般のためのものである。この世界的な潮流の余波は日本にも波及してきている。2001年1月から施行された中央省庁の再編制に合わせて、国の中央省庁のすべてに対して、政策評価の実施が義務付けられた。そして自治体レベルでも、三重県の事務事業評価システム、北海道の「時のアセスメント」から発展した政策アセスメント、静岡県の目的指向型施策評価システムを先駆例として、新しい評価システムを導入しようとする動向が顕著である。

行政学

行政学

西尾 勝著『行政学[新版]』有斐閣 2006年3月20日 p384.引用.

参考文献
(1) 本田 弘著『現代行政の構造』勁草書房 1994年9月30日 p45.p47.
(2) 西尾 勝著『行政学[新版]』有斐閣 2006年3月20日 p358-364.p381-382.p384.p399.